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【連載第1回|The 昇給交渉!】交渉前に知っておきたい「昇給」と「賞与」の性質の違い
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いつも大変お世話になっております。ICONICの長浜です。
現在、ICONICでは2026年度にむけて毎年恒例の「ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です。昇給・賞与の他社動向を客観的に把握されたい企業様は、ぜひこちらからご参加ください。
さて、本調査期間にあわせて、昇給交渉のリアルに迫る全4回の特別連載 「The 昇給交渉!」 を毎週木曜日にお届けいたします。本連載「The 昇給交渉!」 では、現地法人の経営者・人事の皆さまが直面する昇給交渉の場面をテーマに、要求が高すぎる社員との対話術や現場で迷いがちな昇給判断の整理の仕方を4回にわたり考えていきます。
初回となる今回は、交渉テクニックに入る前に、まず押さえておきたい前提として、「昇給」と「賞与」の性質の違いについて整理します。昇給交渉において冷静に判断するためには、「昇給だけを切り取らず、報酬全体の中でどう位置づけるか」という視点が欠かせないためです。
昇給と賞与の性質の違いを、正しく理解する。
年末が近づくと、多くの現地法人で「来年の昇給」「今年の賞与」が話題に上がり始めます。社員からは「今年は上がりますか?」「物価も上がっているのに…」といった声がちらほら。そして経営・人事側は、「どこまで上げるべきか」「業績とのバランスをどうとるか」で頭を悩ませます。
ここで押さえておきたいのが、「昇給」と「賞与」はまったく性質の異なる報酬項目だということです。
両者はまず、「どの期間を対象にする判断なのか」という点で大きく異なります。
昇給は、一度上げれば翌年以降も反映され続ける「未来を見据えた判断」。対して賞与は、その年の業績や貢献度を踏まえて毎年リセットできる「その年限りの判断」です。言い換えれば、賞与はその年に焦点を絞って決めればよいですが、昇給は来期以降を見据えて慎重に決める必要があるということです。しかも、ベトナム労働法のもとでは基本給を下げることは極めて難しく、昇給は実質的には「一度上げたら戻せない」性質を持ちます。
さらに両者は、「何に基づいて決まるか」という点でも性格が異なります。
賞与は主に企業の業績に比例します。「今年は業績が好調だから多めに」「赤字だから少なく」というように、会社の成果と社員への還元を直接つなぐ役割を担います。一方、昇給は、業績よりもむしろ労働市場の相場・物価水準・最低賃金の動向などの社会的な指標によって影響を受けます。いわば、「個社の業績」より「社会の動き」に引っ張られる報酬です。
昇給と賞与を混同すると、判断を誤る。
好業績の年には、「業績もいいし、昇給も多めにしよう」となりがちですが、昇給は気前よくしすぎると、翌年以降の人件費が恒常的に跳ね上がり、景気が戻っても戻せない構造的なコスト増につながります。
一方で、逆の落とし穴もあります。業績が悪いからといって昇給を極端に絞ると、他社との給与水準が乖離し、労働市場全体から取り残されるリスクが生じます。1年昇給を絞るだけでも、その差は翌年以降に残り続け、数年続けば優秀人材の離職や採用難につながりかねません。
つまり、昇給は「上げすぎても、下げすぎても」長期的な影響を及ぼす判断。予算には限りがあるとしても、昇給を決める際は、社会的な指標を十分に考慮した上で、市場から大きく遅れをとらない範囲での昇給判断が求められます。
とはいえ、限られた人件費の中で対応しなければならないのであれば、生産性向上や人員配置の最適化を図りながら、可能な限り一人当たりの昇給水準を相場並みに保つ工夫が求められることもあります。
昇給交渉には「広い視野」で臨む。
社員から昇給交渉を受けたとき、どうしてもその社員の基本給を個別に「上げる/上げない」という二択に意識が向きがちです。しかし本来、昇給判断は、賞与や組織全体の人員構成、生産性など、将来を見据えた総人件費管理の一環としてする組織的な経営判断です。
年末の昇給交渉シーズンを迎えるにあたり、まずは逆に個別の社員の「昇給だけで判断しない」という視野の広さを持つことが、建設的な対話の第一歩になります。
ベトナム市場の昇給・賞与動向を、把握できていますか?
現在、ICONICでは「2026年度ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です(回答締切:12月5日)。この機会にぜひご参加いただき、他社のリアルな昇給・賞与動向を自社の判断材料にお役立てください。
🔔 次回予告(第2回)|要求が高すぎる社員との対話術
「他社はもっと上げている」「私の仕事にはこの金額くらいが妥当」といった社員からの声に対して、どう向き合ったらよいか。実際によくあるこうした昇給交渉の場面で、労使双方の納得感をつむぐための対話の進め方を考えていきます。