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【連載第1回|ベトナム給与相場を読み解こう】静かに進む給与相場の地殻変動
いつも大変お世話になっております。ICONICの長浜です。
ベトナムの給与相場はいま、どの方向に動いているのか?
そして、企業はその変化をどう読み解けばいいのか?
本日より、全3回の特別連載「ベトナム給与相場を読み解こう」を毎週木曜日にお届けします。
ICONICが10月2日に発刊した最新版『2025年版ベトナム給与統計レポート(詳細版)』の調査結果をもとに、ベトナムにおける「給与相場のいま」と「正しい相場情報の読み方」を掘り下げていきます。
第1回目となる今回は、いまどこで、どんな相場上昇・停滞圧力が働いているのかを、2025年版の最新レポートから読み解きます。今年も、業界や職種、職位などによって、多様な変化が見られています。ここでは、その中でも特に顕著だった動きをピックアップしてご紹介します。
GM・Director層の上昇が全業界で共通傾向に
弊社が実施した2025年のベトナム給与調査では、GM・Directorクラスの給与上昇が全業界に共通する傾向として確認されました。特にベトナム人Directorクラスでは、日系・外資を問わず上昇が目立ち、企業経営のローカル化が進む中で、経営戦略を担える上級管理職層の市場価値が一段と高まっていることが読み取れます。
結果として、GM層以上とそれ以下の職層との間で報酬格差が拡大する構図となっています。
この職層間格差の拡大は、定常的な賃金テーブルのメンテナンスにとどまらず、社内の賃金カーブそのものをどう描くかという観点からの再設計を促す可能性があります。
製造業|北部と南部で異なる上昇圧力
GM未満の職層では、地域による傾向差が明確に表れました。
とくに製造業では、北部地域でアジア系外資を中心とした工場増設や新規投資の影響から、ワーカー層の採用・定着難が顕著となり、ワーカー層の賃金上昇圧力が強い一年となりました。
一方の南部地域では、ワーカー層の上昇圧力は一服する一方で、ワーカー班長・リーダー・スーパーバイザー層といった現場に近い中間管理職層の需要が高まり、これらの層での報酬上昇が目立ちました。
非製造業|業界別に見る主な報酬トレンド
非製造業では、各セクターの構造変化がそのまま相場に反映されています。
商社業界では、スタッフ〜シニアスタッフ層とGM層の双方で上昇圧力が強まりました。
ここ数年、ベトナム現地での販社機能を新設・強化する企業が急増しており、営業やセールスエンジニアなどの職種でオペレーションを担う層の増員に加え、戦略立案ができるGM層の獲得競争も激しくなってきています。
建設業界では、日本国内の建設需要や人手不足を背景に、CAD/BIM設計業務のオフショア化が進み、CAD/BIMオペレーター職種で給与上昇圧力が確認されました。また、CADセンターなどの業態では設計チームを束ねる現場リーダー・マネジャー層で上昇傾向が見られ、「技術×マネジメント」を兼ね備えたプレイングリーダー・マネジャーの評価が高まっています。
一方、IT業界では、生成AIの普及などを背景に開発体制を見直す企業が増え、エンジニア採用抑制やリストラクチャリングを進める企業も見られました。この影響もあり求人件数が停滞し、エンジニア職の給与上昇圧力も一服しています。優秀人材の確保は依然として課題ですが、採用方針がより選別的になった結果、市場全体としては落ち着いた推移をみせています。
対照的に、物流業界ではほぼ全職層で上昇圧力が確認されました。サプライチェーン再構築の動きを背景に、倉庫・配送・貿易実務担当からマネジメント層まで幅広く報酬が上振れしています。
「相場を読む力」がますます問われる
このように、同じベトナムであっても、給与相場の動きはどの地域・どの業界・どの職種・どの職層を軸に見るかで大きく異なります。
ベトナムでの企業経営者や人事部にいま求められているのは、ざっくりとした全体像としての相場を追うことだけでなく、「自社にとって意味のある市場」との比較を、いかに的確に行い、どう解釈するかという視点です。
自社なりの報酬戦略の軸を持ちつつ、給与相場を自社のアングルから読み解く力が、これまで以上に重要になっています。
こうしたベトナムにおける給与相場動向の変化をより定量的に正確に把握したい方は、『2025年版ベトナム給与統計レポート(詳細版)』で、業界別×職種別×職位別の最新データをご参照ください。
また、10月28日に「給与相場データをどう読み解き、自社の報酬戦略とどう結びつけるか」をテーマに、【相場を読む力と報酬方針で差がつく賃金比較セミナー】を無料開催します。具体例をもとに、賃金比較の考え方と実務的な進め方をご紹介します。ご興味のある方は、ぜひお気軽にご参加ください。
📍次回予告(第2回)
数字に振り回されないための給与相場の考え方
「給与相場データを集めてはみたものの、数字の羅列をどう解釈したらいいか分からない。判断に迷う。」そんな経験はありませんか?
次回は、相場データをどう解釈し、自社の報酬戦略にどう結びつけるか。
その前提となる「判断に迷わないための事前知識」を整理します。