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第3回|その制度、“いざという時”に企業を守れるか?ベトナム労働法を踏まえた賢い設計とは
本日は、特別連載(全10回)「ベトナム賃金管理入門」の第3回をお届けします。
今年のベトナム給与調査期間中の毎週木曜日に、ベトナムでの企業経営における賃金管理の必須知識を掘り下げてお届けしております。
第2回の記事「うちの賃金テーブル、いつの時代のまま?更新されない制度が招くズレと対策」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
ベトナムでの人事・給与制度。
「とりあえず法律を守っていれば大丈夫」と思われがちですが、それだけでは足りません。
法律は守ったうえで、会社としていざという時に“動ける余地”を残す制度設計が必要です。
特に変化が激しいベトナムの労働市場では、万が一の人事対応や業績変動にも対応できる柔軟かつ賢い仕組みが企業を守ります。
今回は、制度設計を考えるうえでぜひ押さえておきたい「ベトナム労働法の3つの特徴」と、それを踏まえた制度設計のポイントをお届けします。
(※なお、本記事のテーマについて、より実践的な対策事例を交えたセミナーを6月25日(火)に開催します。ご関心のある方はこちらから詳細をご確認いただけます。)
抑えておきたいベトナム労働法の3つの特徴
1. 雇用契約に段階がある(試用 → 有期 → 無期)
ベトナムの労働法では、雇用契約を「試用期間 → 有期契約(最大2回)→ 無期契約」という流れで結ぶのが一般的です(労働法第20条)。
つまり、無期契約になる前に3段階の“見極め期間”があるということです。
この期間をうまく活用すれば、「この人の役割や貢献度に今の給与は見合っているか?」を段階的に評価・判断しやすくなります。
2. 固定給を下げるのは基本NG
評価が芳しくない社員であっても、本人の同意なく会社側の判断だけで一方的に固定給は下げられません。 ベトナムでは、懲戒処分としての減給が禁止されている上に(労働法第127条)、 賃金の天引きも、労働者が損害を与えた場合など法定の事由がある時にしか認められていません(労働法第102条)。
だからこそ、制度の段階で「業績連動して変動する要素を組み込む」ことが重要です。
3. 昇給・賞与は義務ではないが、「明記すれば義務になる」
昇給や13か月目の給与(いわゆるテトボーナス)は、ベトナムでは一般的な慣習ですが、法律上の義務ではありません(昇給:労働法第103条、賞与:労働法第104条)。
ただし、「毎年の消費者物価指数に連動して昇給」「賞与は1か月分を保証」などと雇用契約や集団労働協約に明記している場合は、それは法的効力をもち、変更や停止が難しくなります。
この特徴を活かした“賢い制度設計”のポイント
上述したベトナム労働法の特徴をうまく捉え、次のようなポイントを制度設計に取り入れましょう。
1. 雇用契約の切れ目を活かし、賃金バランスを整える
雇用契約が次の段階に移行する前に、その社員の役割や貢献度と給与水準がバランスしているかを見直せるようにしておく。 評価の基準やプロセスを制度として明文化しておけば、「なんとなく更新」から脱却できます。
2. 固定給が下げられない前提で、“変動給”を上手に取り入れる
評価が芳しくない社員であっても、本人の同意なく固定給は下げられません。 そのかわり、変動制の手当・インセンティブ・賞与などの変動給を報酬パッケージに組み込んでおけば、業績や評価に応じて柔軟に調整できます。
3. 昇給・賞与は「業績や評価に応じる」との記述にとどめる
雇用契約や集団労働協約等の労務文書では、「業績や評価に応じて決定する」などの表現にとどめておくことで、通常時や標準者以上には雇用慣習に則った対応をしつつも、万が一の人事対応や業績変動時には柔軟に対応できる余地が残せます。
最後に
ベトナム労働法の特徴を把握しておくことで、変わりゆく人材市場や業績変動にも対応できる、柔軟に動ける制度をつくっていきましょう。
まずは給与調査に参加して、制度設計の前提となる“市場相場”を把握する
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📍次回予告(第4回)
「そんなに上げるの!?」ベトナム人マネージャーとの温度差
昇給に対する感覚、日本とベトナムではどう違う?
次回は、現場でよく起きる“賃金感覚ギャップ”とその対応について解説します。